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    ある夏の日


    ある夏の日。僕は街にでかけた。理由は今となってはよく思い出せない。

    ひとりで街を歩きたかった。それだけだったと思う。

    夏も終わりに近づき、風が秋の気配を感じさせる。

    ただ雑踏にまぎれて歩くのが心地よかった。

    しばらくすると、信号にさしかかかった。残念ながら赤。

    何気なく僕は正面で信号待ちをしている人達を見渡してみる。

    日傘をさしている女性、汗をふいているサラリーマン、楽しそうに語らっているカップル。

    その中になぜか目をひく女の子がいた。白い帽子にお揃いのシンプルなツーピース。

    夏であればごく普通の格好なのに、その子のまわりだけは、まるで一枚の絵画。

    気がつけば、目が離せない自分がそこにいた。

    その女の子は、ぼくに優しく微笑んでいるように見えた。

    「知り合いだったかな?」

    しばらくして僕はその子が誰かに気づく。信号が青にかわる。ぼくはただ佇んでいた。

    そして聞こえてくる慣れ親しんだ声。

    「お兄ちゃんもお出かけですか?」

    どうやらぼくは妹に見とれていたようだ。フフッ、何だか間抜けな話だ。

    大切な妹の顔を忘れるわけがないのに。

    けれどもそんな気持ちとは別の想いが、僕に生まれつつあった。

    なぜだろう。夏の日差しのせい?それとも?

    動揺を隠しながら答える。

    「可憐ちゃんは、きょうはどうしたの?」

    可憐は少しだけ、困った顔。

    「はい、お母さんにお買い物を頼まれたんです。

    でも、お目当ての香辛料がなくって。どうしようかなって思っていたんです。」

    「ふ〜ん、そう。これからどうするの?」

    「はい、無かったら無理しなくてもいいよって。それに・・」

    可憐はなぜか照れたように、うつむく。

    「それに、何だい?」

    顔をあげた可憐は、満面の笑顔でこう答える。

    「もしかしたら、お兄ちゃんに出会えるんじゃないかなって思って、お出かけしてきたんです。

    それがこんな風に街で出会えるなんて。可憐の願いが通じたのかな・・。

    「え・・」

    最後の方は小さな声で聞き取れなかった。可憐は小さく首を振り、

    「ううん、何でもないです。それよりお兄ちゃん、一緒に歩きませんか?」

    別に断わる理由もない。それになぜか僕はこの時可憐と別れたくない気持ちでいっぱいだった。

    「そうだね。じゃあ何か冷たくて甘いものでもどうだい?もちろん僕のおごりで。」

    「わあ、お兄ちゃんありがとうございます。可憐、チョコパフェたべた〜い♪」

    「いらっしゃいませ〜」

    夏休みのバイトらしい女の子の声が、ベルの音と共に店内に響く。

    結局、僕と可憐は馴染みの喫茶店に立ち寄ることにした。

    いつもの窓際の席に、向かい合わせに座る。

    そして、ぼくは手短にオーダーを頼み、可憐との会話を楽しんだ。

    「それでねお兄ちゃん、ゆかりちゃんがね・・」

    ピアノの話、学校の話、友達の話。そんな何気ない会話がなぜだか心地よかった。

    可憐は僕をみて、本当に嬉しそうに話す。だからぼくも笑顔で応える。

    「あ、ごめんなさい。何だか可憐ばかりお話しちゃって。」

    「いいよ、可憐のお話を聞いているだけで楽しいよ。」

    その後、しばらくおしゃべりを続けたあと、ぼく達は店をでた。

    「お兄ちゃん、きょうはごちそうさまでした。今度は可憐がごちそうしますね。」

    「うん、期待してるね。それじゃあ」

    見送りながら僕は考える。どうしてきょうは、あんなに可憐が眩しく見えたんだろう?

    休みの日に偶然あったせいかなと、その時は思っていた。

    でも僕はその想いの本当の答えを、夏の終わりに知る事になる。



** 後書き **

二年ほど前シスプリにかなりはまっていた時に書いたSS。初期バージョンはデートシーンが終わりませんでした。

雰囲気はシスプリ2の血縁ベストの旅行前。コンセプトは、無意識に可憐をひとりの女の子として兄がみてしまった瞬間。

アマゾンの恋風のレビューで、兄に恋をしてしまった妹さんのお話を参考に、視点を逆にしてプロットの参考に。

可憐の優しい笑顔に兄が無意識に心惹かれている、と言う感じで書いています。萌えバトン参照。

TS的設定では、可憐ちゃんはお兄ちゃんにいつも優しい笑顔を向けていて、だからこそお兄ちゃんも

可憐を優しい笑顔で見守っている、と言う事にしているので、笑顔にこだわって書いてみました。

最近読みなおしたところ、昔書いたSSで一番よくできていたので今回再録となりました。BGMは「日曜の雨のように」です。

本当は、濱アイのマサヒコ×ミサキでプロットそのままで、幼なじみ話にしようと思ったのですが、

最初の雑踏を歩く雰囲気や可憐ちゃんと出会う所がよくできていたので、変更するよりはこのままがいいかな、と。

初恋の女の子のイメージなので、別段兄妹にこだわらなくてもいいのですが、お話的には兄妹の方が幻想的なので。

現実的でないファンタジーさと、大好きよりも大切という気持ちを描いているつもりですがどうかな〜?

最後まで読んでくださりありがとうございました。ガッシュの恵さん話や濱アイのミサキちゃんのお話も、

少しづつ書いていますので、気長にお待ち下さい。


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