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    ふたり


    「それじゃあ、おばさんよろしくお願いします」

    ペコリと頭を下げながら、大きなカバンをもった少女がはしゃいだ様子で語らっている。

    髪を後ろに流し、赤と青の髪ゴムで両端を結んでるのが、何だか可愛らしい。

    「いいのよミサキちゃん。自分の家と思ってくつろいで。幼馴染なら家族同然じゃない。」

    家の主であるマサヒコの母が屈託なく、仲のよいわが娘を迎えるかのように応じていると、

    ちょうど二階から、

    「・・・忘れないようにね、マサヒコ君。自分で頑張るからこそ力になるんだよ」

    ミサキより一〜二歳違いほどにしかみえないマサヒコの家庭教師アイが授業を終えて降りてくる。

    「あれ、ミサキちゃん、そんな大きなカバンでどうしたの?」

    アイが怪訝そうに訊ねる。同じく二階から降りてきたマサヒコが、

    「ああ、天野の両親が結婚記念日で旅行らしいんで、その間うちに泊まることになったんですよ。

     知らない仲でもないし、母さんもいるので、女の子一人を残すのも物騒だしそれならうちでと。」

    アイがマサヒコとミサキを見比べながら、ミサキに小声で、

    「ふ〜ん。よかったじゃない、マサヒコ君と一緒にすごせて。」

    「やめてくださいよ〜。そんなんじゃないです」

    戸惑いと照れを隠せずミサキが答える。

    「これでひとつになるチャンスも増えるってもんよね」

    「本当にやめて下さい」

    いつもの天然さにミサキが冷たくツッコむ。 そのツッコミがおわるのを待っていたのか、

    「マサ、女の子がきたんだからしっかり風呂掃除。変なもの浮いたらこまるでしょ。

     ミサキちゃんは、夕飯の準備を手伝ってもらいましょうか。いい花嫁修行になるわよ。」

    有無をいわさない母親の剣幕にマサヒコを不承不承掃除道具を手に風呂へ。

    花嫁修行の言葉に照れているミサキを見ながら、何か得心がいったのか、

    「ミサキちゃん、頑張ってね。じゃお疲れ様、また明日。」

    とアイは帰路へ向かいミサキは夕飯の準備へ台所へと。

    しばらくして、風呂掃除の終ったマサヒコが、

    「母さん、掃除おわったからそろそろメシ〜、あれ?」

    居間に戻ると、マサヒコの母親が、忙しなく着替えている。

    「ああ、ちょうど良かった。実家がごたついているんで 今からお父さんといってくるわね。」

    「じゃあ、オレ一人でまた留守番?」

    「何いってるのよ、ミサキちゃんがいるじゃない」

    あまりに唐突な展開に、マサヒコが面食らう。そしてやや不承不承に、

    「そりゃ、そうだけど・・・、天野とふたりなんて・・・」

    そんな息子の不平をよそに、いつもながらのペースで、

    「夕飯は作ったばかりだからふたりで食べてね。 ミサキちゃんも手伝ったから美味しいわよ〜。

     そうそう夜は戸締り、火の元、そうそうミサキちゃんの安全・・・」

    「じゃあ、母さんいってらっしゃい。気をつけて。」

    と最後の言葉を聞く前に。マサヒコは鍵をしめ安全確認をする。

    そこへ、さっきまで夕飯の準備を手伝っていたエプロン姿で、

    「小久保くん、どうしたの?」

    「ああ、母さんたち出かけるから留守番よろしくって」

    「知ってるよ。さっき夕飯の準備してるときに電話がかかってきたみたい。」

    マサヒコの気も知らず、動じた様子もなくミサキが答える。

    「それより、ごはん食べようよ。せっかく準備したのに冷めちゃうよ」

    出る間際のミサキが手伝ったの言葉に一抹の不安を覚えつつキッチンに向かうと、

    香ばしい匂いと、綺麗に盛りつけられた野菜サラダ、程よい焦げ目がついた焼き餃子、

    きゅうりのおしんこ、豆腐と揚げの味噌汁と絵に描いたような食事の風景が。

    その風景に軽い驚きを覚えつつ、席に座る。

    「これ、天野が手伝ったのか。」

    マサヒコの茶碗にご飯を盛りながら、

    「うん、盛り付けと配膳だけだけどね。じゃあいただきます」

    見た目はいい、味はとやや不安を隠し、餃子を口に運ぶ。

    「やっぱり、小久保くんのお母さんの料理は美味しいね〜」

    マサヒコも同じく、二つ目を口に運び、

    「いつもより、気合はいっていたのかな。味が全然違う」

    「うん、手作りなんだって。みんなで食べれなくて残念だよね〜。

     私は盛り付け手伝っただけなんだけど・・・・」

    その言葉を聞いてマサヒコの緊張が解けたのか、食事のスピードが上がる。

    「小久保くん、そんなに急がなくても餃子は逃げないよ。」

    とのんびりと食事の時間はすぎていった。



    「じゃあ、天野が風呂に入っている間に、オレが後片付けしておくから」

    食事前とは逆にマサヒコが似合わないエプロン姿でいう。

    「うん、じゃあお風呂借りるね。ホントに手伝わなくていいの?」

    「いいよ。せっかく食事の準備してもらったし。」

    ミサキが洗面所に消えていくのを見届けて、水道の蛇口を回す。

    二人分とはいえ、皿数が多い分結構な量に悪戦苦闘しながらも、

    二十分ほどで洗い物がおわり、マサヒコはふと思い出す。

    着替えるついでと思い、二階の客間に上っていく。




    「お風呂もらったよ〜。あれ?」

    牛のパジャマに着替えて、客間に上がってきたミサキが、

    同じくパジャマで、外をぼんやり眺めているマサヒコを見る。

    ミサキの方に降り返り、みつめながら、

    「天野・・・」

    突然見つめられ戸惑っていると、

    「天野の・・・、みせてくれ・・・」

    「えっ」

    思わぬ言葉に固まる。

    「宿題するの忘れちゃった。ほら前濱中先生に自分でしなさい、っていわれた・・」

    というやいなや、

    「もう、小久保くん!文法ってのは単語を構成しないと成立しないの!

     大体ね!今みたいに宿題って名詞を抜いたら・・・」

    なぜか数学の宿題なのに、ミサキの国語の授業は延々と一時間ほど続き、

    アイ先生と同じく、自分でしなさい、ということに・・・。




    結局自分で頭をかかえながら、宿題するマサヒコの側で、

    音楽番組をみるのもあきたのか、ミサキがリモコンでテレビを消す。

    静かな客間に、夜の帳と共に響く時計とシャーペンの音が不思議なリズムを奏でている。

    苦手な数学の宿題をするマサヒコを、手伝うでもなく、口出しをするでもなく、ミサキは訊ねる。

    「ねえ・・・、小久保くんも地元の英稜高校が本命なの?」

    数学の公式と懸命に戦っている為か、マサヒコは頭を上げずに、

    「ああ、家から近いし、何より一番オレのレベルに合ってる。」

    「そう・・・。私が受ける聖光はここから一時間ぐらいかかるんだ」

    「そっか。じゃ朝は早いから、もしお互い合格したら入れ違いだな。」

    「うん、そうなると私達、会う機会なくちゃうよね・・・」

    いつもと違うミサキの声に、宿題をする手を休め、マサヒコが見上げると、

    少し寂しげにミサキがつぶやく。

    「卒業したらアイ先生の授業もおわっちゃうでしょう。

     そうしたら私がここに来る理由もなくなっちゃうし、

     また昔みたいに、疎遠になっちゃうのかな?」

    そんなミサキを元気づけるかのように、マサヒコが笑顔で答える。

    「別に理由なんていらないじゃないか」

    「え?」

    「いつでもウチに来いよ。オレ達、幼なじみなんだからさ」

    天使が通りすぎたかのような数瞬の沈黙。

    そして、ミサキは柔らかい微笑みを浮かべながら

    「やっぱりやさしいよね、マサちゃんは・・・。」

    「マサちゃんって、お前そんな大昔の呼び方を・・」

    ミサキがそっとマサヒコに手を重ねる。

    「私達・・幼なじみじゃない・・、私のことも、名前で呼んで・・」

    重ねられた温もりに照れそしてそれ以上に、心地よい懐かしさに、不思議な安心感を覚えながら、

    「ミサキ・・・」

    名前を呼ばれたミサキが、嬉しそうにみつめる。

    「クチクサイ」

    マサヒコに右ストレートがクリーンヒット!そのまま闇の中へ。




    「それでどうだった、おふたりさん?」

    翌日、アイが授業にくると、からかうように訊ねる。

    「もう、ひどいんですよ。クチくさいっていわれました(怒)」

    なぜか、押し黙っているマサヒコとミサキの顔を見比べながら、

    「ダメだよ、マサヒコ君。初めてなんだから、においくらい覚悟しないと〜。デリカシーないよ。」

    相変わらずの天然さに、溜息をひとつ、つきながら、

    「先生もそうとうデリカシーないですよ。」 とクールにツッコむマサヒコ。

    いつものふたりをみて落ち着いたのか、帰り支度をおえたミサキが、

    「それじゃあ私もう帰るね。マサ君、おばさんに餃子美味しかったです、

     って伝えておいてね。手作りだからにんにくもはいっていなかったし。」

    ハッとするマサヒコを見て、イタズラっぽく微笑む。

    マサヒコは動揺をさとられないように、

    「うん、わかった。じゃあなミサキ、また学校で。」

    アイとマサヒコに手をふりながらミサキは家に帰っていった。

    アイはそんなふたりを嬉しそうに見ながら、

    「本当はどうだったの、マサヒコ君。何だかふたりとも仲良さそうだよ。」

    「仲良いどころか、ミサキの右ストレートの強烈さといったら・・・」

    「ふーん、ミサキ、か。」

    マサヒコをやさしくみつめながらアイがつぶやく。

    「え、オレ、ミサキにまた変な事いっています?」

    「ううん、何でもない。それじゃあ授業を始めるよ。数学の宿題は出来た?」

    そして、いつもと変わらぬ日常がはじまる。



** 後書き **

頑張りました。第89話のアレンジバージョンですが、あ〜難しかった〜。漫画のSS化初挑戦作です。

正直できはあんまりよろしくないですが、TSは濱中アイという作品をこう見る、というのがよく表れています。

プロットで登場人物はマサヒコ、ミサキ、アイ、マサヒコママの四人に絞り込み。他キャラクターは、

リョーコセンセの役割はアイセンセとマサヒコママ、リンちゃんの役割はアイセンセとミサキちゃんに、

とわりふり。アヤナちゃんはアイ→マサヒコ→ミサキの三角関係が崩れるので無理なのでカット。

まあ筆者のレベルでは書けないってのもあります。で萌えバトンに書いた幼なじみの部屋、と

優しく見守るをコンセプトに、ミサキちゃんを優しく見守るマサヒコ、そのマサヒコを見守るアイと、

ニ重視点的なオチにしたかったので三人称で。ああ場面転換がへたくそなのは自覚してますのでご容赦を。

書きたかったのは、原作同様名前で呼び合う幼なじみと、あと餃子ににんにくがはいっていなかったオチ。

ふたりというタイトルは、マサヒコ×ミサキだけでなくアイ×マサヒコにも意味を持たせたりしてます。

勝手なMY設定では、マサヒコもミサキちゃんを、大切な幼なじみ、と心の底では思っている旅立ちの詩設定なので、

恋人的になる展開を無意識に避けているというか。最後に名前を呼んでいるのは知らないうちにです。

ミサキちゃんのヘアゴムが赤と青なのは、闘気と冷静さの二面性を表す意味でのオリジナル設定。

赤と青のイヤリングにしたかったけど、作品世界が崩れるので止めました。そちらはオリジナルで使おうかな。

拙いお話に貴重な時間を割いて最後まで読んでくださりありがとうございました。

ガッシュの恵さん話も少しづつ書いていますので、気長にお待ち下さい。


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